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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第49回
「想い出す、あんな失敗こんな失敗」
(2003年11月16日UP)

だれだって始めたときは当然初心者です。 今でこそみなさんに、樹脂についていろいろとお教えできるようになりましたが、私だって最初は何もわかりませんでしたよ。
樹脂で成型するという作業自体は、ただ計量して混ぜ合わせて流し入れればいいわけですから、さほどむずかしくはなかったですが、シリコンでの型取りや成型品の加工、塗装などには細かいコツがたくさんあり、それがわからないゆえの失敗はとても多かったですね。
なにしろ当時は情報がなかったですし、だれにも聞くことができませんでしたから、ひとつひとつ自分で乗り越えていくしかなかったので、正直に言いましてつらいこともありましたよ。
これまでの10数年間は、「疑問」や「失敗」という名の、大きな階段を一段一段よじ登ってきたような感じです。 しかしそうして技術と知識を磨いてきたおかげで、今みなさんのお役に立てているわけですから、失敗もそれに伴う金銭的な損失も、決して無駄ではなかったんですね。

自称芸術家さんのことはわかりませんが、ご自分を職人と考えていらっしゃる方なら、きっと私と同じように失敗を繰り返し、それを積み上げてやってこられたと思います。
言い訳ではありませんが、失敗なしに技術の向上はありえません。 もちろん失敗してそこであきらめてしまったらなにもなりませんが、「どうしてだろう?」「どうやったらうまくいくだろう」と、試行錯誤することが大切です。
趣味でならいいのですが、これが仕事となりますと苦しいですよね。 できなければ売上げに直接影響しますからね。 それでも今思うと申し訳ないような物を売っていましたよ。
技術がありませんでしたから、勢いだけで作って売っていた感じです。 幸い当時はバブル経済の真っ最中でしたから、目新しい物なら何でも売れた時代で、それに助けられたということはありますね。

樹脂で作品を作る前には、工場でノートや下敷き、Tシャツなんかを作りましたが、これはまったくの失敗でしたね。 もう茫然自失なんてもんじゃなかったですよ、すべてを投げ出してどこかに逃げようかと、真剣に考えたほどです。
この大きな失敗をふまえて、自分の手で作らなければダメだ、ということに気が付いたんです。 非常に高い授業料でした(笑・・・笑いごとじゃないって)
そんな時にたまたま樹脂という素材を知ったんです。 「これしかない!」と思いましたね。
試しに成型してみたら案外簡単で、能天気ですから「こりゃ簡単に大量生産ができるぞ! マージンが掛からないから儲かる!」とかなんとか、すぐに調子にのっていろいろと作り始めました。
しかしやってみると、さっき書いたとおり次々と問題が起きてきたわけなんです。 例えばラッカーを塗ってもすぐに色がはげてしまうですとか、成型品が固まらないですとか、気泡ができるのはなぜだろう?ですとか、接着剤が効かない、成型品がそって変形してしまった、そのために鏡がゆがんでしまった、染色した色が時間とともに抜けてしまった、変色したなどなど。 
成型品を洗うにしても、スポンジたわしやらブラシやらなんやらいろいろと試してみましたし、洗剤は何がいいのかとかね。 試行錯誤には時間がかかります。 したがって今思うといい加減な出来の商品もあったわけなんですね。 そういう物でも売らないわけにはいきませんから、冷や汗を流しながら売っていたというのが正直な気持ちです。

今でこそ複雑なインテリア雑貨なども作れますが、技術がない頃はもちろんそんな物は作れませんから、簡単なキーフォルダーやペンダント、バッチなんかを作っていました。
ひとつ200円から300円、高い物でも1,800円くらいだったでしょうか。 ですからたくさん作らなければいけませんよね。 当時10軒くらいに卸してたかな。 もう一日中樹脂とラッカーにまみれているような生活でした。
ショップには「〆」と「支払い」の期日が決まっていて、たいてい月末〆の翌月末払いでした。 月末〆といっても25日頃までしか納品はさせてもらえません。 30日近くに持って行くと、「こんな〆間際に持って来ても入れられないよ。 来月の伝票にして」と言われるのです。 当たり前ですが。
ですからなんとか今月の伝票で納品できるように、無理をして睡眠時間を削ったり、徹夜をしたりして作っていました。
月末が近くなる、ラッカーが乾かない、接着剤が固まりきっていない、どうする、もう間に合わない、しょうがないいちかばちか袋詰して持ってちゃえ! なんて持って行ってうまくいくはずがありません。 そういうのはショップからクレームがついて返品になりますよ、たいていね。 あわてて無理していい仕事などできるはずがありませんからね。

こういう失敗は実によくありましたよ。 いけないと頭ではわかっていても、伝票が今月になるか来月になるかでは大きな違いですから、どうしてもそうした弱さに負けて、手を抜いた仕事をしてしまうこともありました。 これはいけませんね、恥ずかしいことです。 私だけかもしれませんが・・・。
そんなことを何度か繰り返して、「急がば回れ」などという、実に単純なことわざの意味を知るわけなんです。 「急がば回れ」、この言葉を今でも肝に銘じて仕事をしています。 あわててリスクを背負うよりも、落ち着いて回り道をした方が結局は早いですし、確実なんですよね。 お金だけでなく、信用を失わないためにも、少し損をしてでも堅実な仕事をした方がいいということですよ。 信用は自分にとって財産になります。 目先のお金はすぐに消えてしまいますが、得た信用はあとで必ず自分を助けてくれる時が来るのです。
もっともじっくり時間をかけても、いまだに完璧な物など作れませんけどね。

真面目に本気で取り組んでいれば、どんな業種であれ技術というのは、徐々にではありますが身に付いていきます。 そうすれば以前のように「どうしたらいいだろう」などと、技術的に行き詰まることも少なくなります。 しかしそれでスラスラと世渡りができるようになるほど、世の中は甘くありません。
調子にのって、いい気になって人間関係で失敗をしたり、経営方針を間違えて損失を出してしまったり、なにを作ったらいいのかわからなくなって、スランプに落ち込んでしまったり、うっかりサンプルを置いていったためにデザインを盗まれたり、口車に乗って便利に使われてしまったり・・・。 いろいろありましたよ。
でもそこでくさらずに、あれも経験、これも勉強と思ってやってきました。 失敗を活かすかどうかは、自分のその後の行動にかかっていると思っています。 いつまでも愚痴っていてもしょうがないですから、その失敗を次に活かすことですよ。 そうすれば無駄にはなりませんからね。 無駄どころか財産にさえなりますからね。

最近の人は失敗を怖がりすぎる気がします。 命に関わるような失敗はいけませんが、しょせん物作りですからね。 樹脂がうまく固まらなくたってだれに迷惑をかけるわけでもなし、接着したところが取れてしまったら謝ればいいだけですから。
失敗すること、失敗して人からなにか言われることを、そんなに怖がらなくても大丈夫なんですよ。 たいしたことじゃないんですから。 まして趣味で作るのならだれにはばかることなく、大威張りで失敗をすればいいんですよ。 そしてその失敗からコツを学ぶ、それが「技術を身につける」ということなんです。
失敗なしにすらっとうまく出来てしまうと、ボクサーで言う「打たれ弱い人」になってしまいます。 なぜそうするのか、なぜそうしてはいけないのかを知っているかいないか、それは失敗をしたかしないかの違いなんです。 この違いはとても大きいんですよ。
失敗から身をもって学んだ人は強いですし、技術が身につくのも、先に進むのも早いです。 失敗を恐れてしりごみしていては先に進めません。 ちょうど転ぶのを怖がって、自転車に乗ろうとしない子供のようにね。

私は仮に「全国失敗選手権」なるものがあったとしたら、結構いいところまでいけると思うほど、様々な失敗をしてきました(笑・・・だから笑いごとじゃないって)
私は手先もさほど器用ではありませんし、デザイン力にも恵まれていませんが、そうした欠点を失敗から学ぶことで補ってきたと思っています。 私が人に自慢できるのは、ただ失敗を怖がらず、自分に自信を持って、絶えず前を見つめてやってきたことだけです。
私がみなさんにお教えしていることはすべて、失敗から学んだことなんです。 失敗を自分の物にするかどうかは、後ろを見ないで、前に進むことですよ。 「必ずうまくいく」と信じて、がんばりましょう。