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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第57回
「レンタルスペースへの出店」
(2004年3月16日UP)

「ショップへの卸し」、「ネットショップの開設と運営」と続けてきましたから、今度はレンタルスペースへの出店です。 つまりご自分のショップを開店したり、あるいは期間限定で作品展や、販売をするということです。
私は雑貨屋での販売、作品の卸し、ネットショップの運営は経験ありますが、ショップを持ったことはありません。 近いことといえば、あるフェスタに1日出店したことでしょうか。 残念ながらショップを持つチャンスはありませんでした。

しかし「いつかはショップを持ちたい」という気持ちは、長い間心のどこかにあり、自分なりに理想とする出店場所や、運営方法などをあたためてきました。
私は職人ですから、もちろん仕入れた商品を売るわけではなく、自分で作った作品を売るスペースとして、ショップを持ちたいと思っているのです。 そこで作り、そしてそこで売る、というのが理想ですね。 つまり工房とショップを兼ねるのですよ。

出店するなら高校生や大学生がよく通る、商店街の一角なんかがいいですね。 ショップの外装内装にはあまり手をかけず、シンプルでいきたいです。
棚や什器は自分で作り、ひとつひとつの作品を、作風に合わせてディスプレイします。 量販店ではありませんから、ボリュームに欠けるでしょうけれど、ゆっくりと見ていただける空間にしたいですね。 
ディスプレイは大好きですから、いろいろな素材を買って来て、高さを作ったり、奥行きを作ったり、レジンの透明感が生きるように工夫したり、きっと楽しいでしょうね。

お客様がいらっしゃったら、「どうぞごゆっくりご覧くださいね」と声を掛け、ショップの奥にある小さな作業場で、私はコツコツ作品を作っています。 親しい方が来てくれた時には、ショップの一角に設けたテーブルでお茶を飲み、お菓子をつまんで談笑を楽しみます。
若い子、年配の方、女性、男性、いろいろな方に来てもらえるように、入りやすい雰囲気を作ることに気を配り、買い物をされたり、作品をご覧いただくだけでなく、多くの方が集える場所になる、それが私のショップに対する理想ですね。

これは一定期間のみの出店でも同じことが言えると思います。 やはりショップという空間は、入りやすくて、ゆっくりと商品を眺められることが第一です。
入りにくい、ショップの人がじろじろ見ていて居づらい、そんなショップはいけませんよね。 あまり 「買ってほしい!」という気持ちが強すぎますと、知らず知らずそうした雰囲気を作ってしまうものです。 やっぱり基本姿勢は、「ごゆっくりとご覧ください」という気持ちでお客様に接することでしょう。
私が雑貨屋の店長をしていたときに、一番気をつけたのはそうした雰囲気作りでしたよ。 アルバイトの子達は一生懸命さのあまり、「売ろう!」という気持ちが前面に出すぎてしまうもので、そうした雰囲気になったときに冗談で笑わせたり、からかったりしてリラックスさせるように心掛けていました。

だれだって買い物に行ったときは、気がねなくゆっくりと見たいですよね。 ですからお客様の身になって、そうした雰囲気を作ることが大切なのです。
ショップにしろ、作品展にしろ、そうした雰囲気を作ることができるかどうかで、うまくいくかどうかが決まると言っても、言い過ぎではないと思っています。 「買っていただく」というよりも、「楽しんでいただく」ことを大切にしたいですよね。

ショップだけを運営するのではなく、工房を兼ねていますと、売上げにそれほど執着することがなくなると思います。 工房を持つにしても、やはり同じように賃貸料などがかかるわけですから、作るだけでの空間、売るだけの空間と区別せずに、一緒にやった方が経営としては無理がないと思うのです。
売られている商品がそこで作られているというのは、お客様にとっても嬉しいでしょうし、また、作る側としても、お客様の反応やご意見を直接うかがうことができるわけですから、ひとりでコツコツ作っているより、はるかに勉強にもなりますし、客観性を維持することにもなると思います。

私がショップをやりたい最大の理由は、人と接することが楽しいからです。 接客にしろ、世間話にしろ、人と接することは私にとってとても楽しいことなのです。
接客の場合、私は先ほども書きましたが、「ごゆっくりご覧くださいね」と言うだけで、あとはなんの説明や、商品の紹介などはしません。 もちろん無視して作品作りに没頭するわけではありませんよ。 お客様が私の目線を気にしないで、ゆっくりとショップの中を見ていただける雰囲気を作るのです。

ずっと黙っているわけではなく、要所要所で「手にとって見ていただいて結構ですよ」とか、「色はお好みでお作りしますよ」とか、ちょっと声を掛けます。 こうしたタイミングと声の調子というのは、経験のない方には意外とむずかしいものですが、これこそが接客の楽しさなのです。
お客様のちょっとしたしぐさや、眼の動きなどを (さりげなく)見ていますと、その方がなにをお考えになっているのか、どういった疑問を感じているのかがわかるようになります。
多くの方はお聞きになりたいことがあっても、ご自分からショップの人間に声を掛けることはしません。 そんなときにタイミングよくこちらから言葉をかけて、その糸口を作って差し上げる、そして少しずつ会話によってお客様との距離を埋めていきます。
それができるかどうか、それを楽しいと感じることができるかどうかで、運営がうまくいったり、楽しくなったりするのですよ。
ショップの楽しさはお金儲けではありません。 こうした接客の楽しさなのです。 この楽しさを知ってしまいますと、もうやめられませんね。 それほどエキサイティングなのですよ。

ディスプレイも楽しいですね。 その良し悪しで売れ方がまったく違ってしまうのですからね。 つまり自分の仕事の結果、仕事の良し悪しがすぐにわかるわけです。 これもやり始めますと、おもしろくてやみつきになります。
私がディスプレイの楽しさを知ったのは、靴屋でバイトしていたときでした。 その靴屋は全国チェーンの大きなショップでしたから、ディスプレイにもいろいろと会社の決めがあったのですが、私はそれを無視して自分の好きなように靴をディスプレイしました。
ハイヒールのディスプレイが一番楽しかったですね。 靴自体が立体的な形ですが、それをさらに立体的に見えるように、高低で棚に流れを作ったのです。 売れましたねぇ。 おもしろいくらいに売れましたよ。
売れると嬉しいですからさらに張り切って、店中をディスプレイしなおしました。 これがディスプレイの楽しさを知ったきっかけですね。

横浜で初めて雑貨屋に勤めたときのことですが、その雑貨屋には通りに面して大きなウィンドウがあり、そこで季節季節の商品を並べて見せていました。 が、それはとてもディスプレイといえる代物ではなく、いつも「ダサいなぁ」と思っていました。
あるとき季節の変わり目で、1週間程度ウィンドウに飾る物がなくなってしまったことがあり、そこで「ディスプレイをやらせてほしい」と申し出て、猫をテーマにして、店中から使えそうな猫に関係した商品を集め、大人っぽい雰囲気になるように飾り付けました。
そのときのお客様の反応はすごかったですね。 ウィンドウに人だかりができて (大げさでなく)、その方々がほとんど店の中に入っていらして、ウィンドウに飾られている商品を次々とお求めになり、あっという間に売り切れ商品が続出して、しまいにはウィンドウに飾ってある物までお売りしましたよ。
あんなに興奮したのは、それまでの人生で初めてのことでした。 つまり自分の価値が実感できたわけですから、それはそれは嬉しかったのですよ。

しかしディスプレイのむずかしさは、やりすぎてはいけないという点ですね。 楽しいですからついやりすぎて、ごちゃごちゃしてしまい、商品よりディスプレイが前面に出てしまいがちになるのです。
それを客観的に見て、少し寂しいかなぁと思うくらいでやめるのですが、その見極めがむずかしいのですね。 どうしてもやりすぎになりがちです。

ショップにしろ様々なフェスタにしろ、出店される方々の、ディスプレイに対する認識の低さをいつも感じます。
ただ平たくずらっと並べたり、ピンなどでぶら下げたりするだけの見せ方がほとんどですね。 どうしてもっと凝らないんだろう?と、いつも思っています。
ショップなどを見ていますと、本当に商売する気があるのか?と、疑問に思うことがしばしばです。 なんだかやる気がないなぁ、そう感じるショップがほとんどですね。 せっかくショップを持ったのに、せっかくショップを任されたのに、もったいない話だと思います。
飾る素材を集めたり、高さや奥行きでスペースを立体的に見せたりするのは楽しいことですし、また2週間に一度は部分的な変更を、月に一度は全体の変更をする必要があります。
それはいつも来てくださるお客様のためなんですね。 いつ来ても同じでは飽きてしまいます。 いつおこしいただいても楽しんでいただけるようにする、ディスプレイにはそうした側面もあるのです。

ショップ運営の楽しさは、接客とディスプレイ、それに尽きるのです。 私もいつか自分のショップを持ちたいですね。