ただいま制作中のスパイラルクロックの工程を、最初から順番に見ていただきましょう。
立体作品がどのような作業工程で制作が進んでいくのかを見ていただくことで
少しでもみなさんの創作のご参考になればいいな、と思います。
最初に言っておきますが、私は型を取るための原形を作るのが大の苦手ですし
日々の仕事をこなしつつですから、なかなか作業が進みませんよ。

ではご覧ください!




元となるデザイン画。 しっかりしたイメージができていたわけではなく、こんな感じの形・線が表現できたらいいな、程度の絵です。 いつもだいたいこんな感じ。

描いたのは2011年の秋。



最初に書きましたように、私は原形の制作がヘタですから、いきなりイメージ通りの形を作るなどということができませんので、まずはおおまかに少し大きめに形を作ってから、乾燥させたあとで削っていく手法で作っています。

今回の作品は曲線の多い形状で、構造が複雑になりそうなので、石粉粘土で原形を作ります。
石粉粘土プルミエはとてもきめが細かいので、人形の制作をされる方などもお使いになっているようですね。
やわらかくて形作りやすいですし、乾燥後はかなり硬くなりますから扱いやすいですし、カッターナイフや彫刻刀でカットしたり、サンドペーパーで削ったりと、原形制作に必要な作業すべてに適しています。


作品の形状によっては石こうで作ることもあります。 たとえばゼリービーンズシリーズのように、幾何学的な形状の作品は、石こうで作った方がやりやすいですね。


2012年2月23日



2012年3月21日

上の画像から1ヶ月が経過していますが、その間なにもしていなかったわけではありません。 頭の中にあるイメージを形にするために、削ったり、スパイラルの線の位置をずらしたり、あるいは粘土を付け足したり、曲線のカーブを変えてみたりと、少しずつ形を整えていきました。

私は新しい作品を作るたびに、必ずひとつは新しい技法やアイディアを盛り込むことにしています。 それによって自分の技術と知識を向上させてきたわけですね。
で、このスパイラルクロックに盛り込んでみようと思ったのは、隙間を作ること。 こうすることでより立体的な造形になりますからね。 画像は隙間を切り出しているところ。

ただし、シリコンで型を取るのがとても難しくなります。 つまりこうした隙間のある形状の型取りができるようになることが、私にとっての技術的なテーマであるわけですよ。


実はこのスパイラルの隙間を作るというアイディアには元があります。 今から約10年ほど前に実験的に作ってみたもので、ペンダントトップにしようかと思いましたが、アイディア倒れでデザインがつまらなく、商品にならないのでそのまま寝かせてありました。 10年経ってようやくこのアイディアが日の目を見るわけです。 もちろんこれよりも複雑になりますけどね。

 


デザインに関しましても元の作品があります。 それに関しましては私のブログで書いていますので、そちらをご覧くださいね。


そのほかに隙間のある作品は、ブラックキャットミラーがあります。 ご覧になってもどうやって型を取ったか、おそらくわからないでしょうね。 とてもむずかしかったです。
わかります?


お客様のご要望で着色したキャット



さて、あーでもないこーでもない、こーしたらどうだろう?こーした方がいいんじゃない?といった感じで、カッターナイフでカットしてはながめ、ながめてみては粘土を付け足し、なんだかよくわからなくなる (客観的に見られなくなる) と、10日くらい放置してみたり、そんなふうにして徐々に頭の中のイメージに近づけていくわけですよ。
まるで粘土のかたまりの中から、自分のイメージする形を発掘しているような感じですね。

才能のある人ならスパッと作れるのでしょうけれど、私は無理。 こうして文字通り試行錯誤しながら原形を作っていくわけですね。

2012年4月9日



2012年5月2日

この原形作りで一番悩んだのは、この線の流れの最後の部分ですね。 上からスパイラルを描いて流れてきた線が、最後にフワッとはねあがるように表現したかったんですが、それをどうしたらいいのかがわからなくて・・・・。

一時はレースのカーテンがひるがえるような感じにしようかなとも思いましたが、いろいろ考えた末に、シンプルな、ある意味で無表情な線で流すことにしました。

お客様の好みは千差万別ですから、すべての人に気に入っていただけるデザインなどありえないことは、これまでの20数年で痛感していますから、自分の頭の中のイメージの70%くらいが出ていれば、それで良しとすることにしました。

これまでは完璧に自分のイメージに近づけようとしてきましたが、それが却って空回りすることも多かったですね。
ですからデザインがくどくなるよりは、ちょっと物足りないくらいの方が、お客様もご自分の好みやイメージを投影しやすいんじゃないかな、そんなことを考えるようになったしだいです。 これは私にとりましてとても大きな成長なのです。



だいたい全体のバランスが整ったら、サンドペーパーでなめらかにします。 カッターナイフでカットした面がなめらかになるだけでガラッと印象が変わるでしょ?

こうしてなめらかにすることで、作品の表情、線の流れ、バランスが見えやすくなります。 で、またバランスの良くない部分を作り直したり、へこんでいる部分を粘土で埋めたりします。

2012年5月16日



2012年5月31日

ある程度いい感じになったら、いったんラッカーで着色します。

これには2つの意味があります。
ひとつは着色することで、石粉粘土表面を固める、ということ。 粘土にしみ込んだラッカーが乾燥することで、石粉粘土を強化するわけですね。

もう一つはでこぼこしている箇所がわかりやすくなって、作業がしやすくなる、ということです。

シルバーかゴールドのラッカーで着色しますと、でこぼこがはっきりと出ていいと思いますよ。
ただ安いラッカーは顔料がドロッとしている物がありますからよくないです。
メーカーはどこの物でも結構です。 私も決めてません。



ラッカーがしっかりと乾いたら、へこみをパテで埋めます。

今回使ったパテは、車のキズの補修用パテです。
それがいいというわけではなく、私は 「ド」 が付く田舎に住んでいますから、身近なホームセンターなどで手に入る資材の中から、使いやすい物や仕上がりのいい物を探して使うことが多いのです。

パテには、薄盛り用の接着剤のようなゲル状のパテと、厚盛り用の2液 (2種) 混合タイプのパテ、粘土状のパテ、固形のパテなどがありますから、それぞれに用途に合わせて使い分けます。
ようするに小さなへこみは薄盛り用のパテで、大きく埋める場合は混合タイプのパテ、形を付けるときは粘土状、あるいは固形のパテを使う、ということですよ。

車の補修用パテは、きめが細かいですし、定着がいいから扱いやすいです。

パテはどれも匂いがきついですから、外で作業する方がいいですよ。

2012年6月7日



2012年6月7日

パテが固まったら、サンドペーパーで削ります。

「サンドペーパーは何番くらいの目の物が適していますか?」 というご質問をよくいただきますが、私は最初から最後まで240〜400番くらいの、わりと粗目のサンドペーパーで作ります。 一番よく使うのは320番かな。 手に入りやすいですしね。

ただそのまま使うのではなく、ペーパー同士をこすり合わせて目を磨滅させて使っています。 そうすることで目の粗さを自分で調整して削ります。

石粉粘土や石こうを削る場合、削る箇所の形によって適した目の粗さが異なります。 ですから1枚のサンドペーパーのいろんな部分を、さまざまな粗さ、細かさに自分で調整しておけば、そのペーパー1枚でどんどん作業ができますし、サンドペーパーも道具の一つですから、使い込んでいくうちに扱いやすくなってきます。 それで私は1〜2種類くらいのサンドペーパーで作っています。

私が使っているペーパーは、ある部分は320番くらい、ある部分は400番くらい、ある部分は800番くらい、ある部分は1000番くらい、というようになっていますよ。



そろそろ完成に近づいてきたかな、というところで、娘に 「斜めってる」 と指摘され、固形のパテで傾きを修整し、それにともないまして形も少し整えなおしました。

今回使った固形パテは、ずいぶん前にハンズで買ったタミヤのパテです。 私のは速乾ではありませんけど。
このパテは硬化後のきめが細かくて、かなり硬く固まりますからあとの切削作業がしやすいですよ。
2種類の板ガムを練り合わせるって感じのパテです。

2012年6月29日



2012年7月10日

サンドペーパーでなめらかにしたので、再度ラッカーで塗装しようと思って、ほこりを拭いていたら手が滑って落として壊しちゃいました(^^;)

こういう場合は瞬間接着剤を薄くつけて、素早くくっつけて、ひび割れはパテで埋めます。
瞬間接着剤が固まった部分は、まわりの石粉粘土よりも固くなりますから、あとでサンドペーパーで形を整えるときに、削る力を加減をして平らになるように気を付けて削ります。



もう大きなでこぼこはなくなりましたから、私の好きなメタリックグリーンを吹き付けて、表面をきれいにしました。
ラッカーは計3回吹き付けました。 一回一回しっかりと乾燥させることが大切ですよ。

もちろんこれで完成ではありません。

2012年7月11日



2012年7月17日

ラッカーを吹き付けることで、まだ小さいへこみやキズがあることがわかりますから、またパテで埋めます。



そしてまたサンドペーパーでなめらかにします。 私流の原形制作は、パテを塗ってサンドペーパーで削る工程を、きれいになるまでひたすら繰り返すことで、少しずつ少しずつなめらかに仕上げていくのです。

時間はかかりますが、私にはこれが最良の方法なのですよ。 以前は粘土細工の腕を上げて、最初からある程度の造形ができるようになりたいと思っていましたが、不器用な私には無理でしたからあきらめました。
それに削る作業の中でデザインが変わることもありますし、削ったり、付け足したり、形を直したりする作業の間に、だんだん作品に対する愛情が深まって愛着がわいてきます。
ヘタはヘタなりに時間をかければ作れるんですから、だったら時間をかければいいんだ、と今は思うようになりました。

基本的に物を作るのが好きでこうしたことを仕事にしているわけですから、自分の手の中で少しずつきれいになっていく工程や、だんだんイメージに近づいていくのは楽しいものですよ。

2012年7月18日



2012年8月4日

メタリックグリーンのラッカーを5回吹き付けてから、クリアーラッカーを4回吹き付けて、ついに原形の完成!

先に書きましたように、ラッカーは1回1回しっかりと乾かしてから吹き付けますよ。 そうしないとかえって乾燥が遅くなります。

吹き付け作業は湿度の低い晴れた日に行います。 曇天や雨降りの時に吹き付けますと、湿気がラッカーの塗膜の下に入り込んで、表面が白く濁ってざらついてしまいます。

ラッカーをまんべんなく吹き付けるのは案外むずかしいもので、慣れが必要なのですが、タミヤのスプレーが塗りやすいと思いますよ。



きれいにツヤが出て、いい感じに仕上がりました。
もちろん完璧ではありませんが、原形としては十分に役割を果たしてくれるだけの仕上がりになっています。

どうです? なかなかきれいでしょ?
これがエポキシレジンで成形した時に、どんな表情になるかということですね。 頭の中でイメージしてみるかぎりではいいんじゃないかな。 流し入れる時に発熱させないように、少し工夫が必要になるけれど、まぁ なんとかなるでしょう。

2012年8月6日



いつものことなのだけれど、原形が完成すると途端にこの作品に対する興味が減退するのです。
なぜかと言いますと、私は物を作るのが好きなのであって、シリコンで型を取ってレジンで成形する作業は複製を作ることですから、ここから先の作業は 「仕事」 になるため、あーやれやれといった気分になるのです。
できればこうした1点物をどんどん作っていけたらいいのだけれど、それでは商売になりませんからね。

まぁ もちろんレジンで成形したものは、それはそれできれいですから好きなんですけどね。


さて、いよいよ型取りになります。 久しぶりにむずかしい型取りなので緊張していますよ。 失敗したら原形がダメになりますから、一発勝負です。


現在はここまで。

ただいまストレス性の眼病が悪化しているため制作を中断しています。
作業が進みましたらまた更新しますね。